Language Diffusion

Exploring Causes Other Than Colonial Policy

Nanako Okuyama

Journal of Students Inquiry Volume 1 Issue 1


Keywords: language diffusion, colonial policy, religion, language similarity, art

言語が広がる原因を調査し、考察した。現在、世界に広がっている主な言語は英語、スペイン語、フランス語、アラビア語などだ。調査より、それらが広がった背景には植民地政策も深く関わっているが、その他にも言語の類似性や宗教などが関わっていると考えられる。よって、言語が広がる要素は支配だけではないという結論に至った。

キーワード: 言語の拡散 植民地政策 宗教 言語の類似性 芸術

現在、世界には多くの言語が存在している。Ethnologueによると、7,151言語もの言語が使われている。そのうち、アラビア語やスペイン語などいくつかの言語は多くの地域や多くの人に使われている。また、英語は「世界共通語」と言われるほど世界に広がっていて、非英語圏でも多くの人に学ばれるほど普及している。これらの言語が広がったのは植民地政策が原因だというのが通説だ。寺澤盾氏は著書で「英国の植民地政策の結果、英語は全世界に拡がり、英語には、現在、イギリス英語、アメリカ英語、オーストラリア英語、ニュージーランド英語などの変種がある。」(寺澤 2008)と記している。しかし、それだけが言語の広がりに影響しているのだろうか。今回のレポートを通して、言語が広がった理由は植民地政策によるものだけなのか、他の原因があるのかを考えていく。

2.1 話者人口が多い言語の基本情報

  第二言語を含めた話者人口の多さの2022年上位10言語は英語、北京語(中国語)、ヒンディー語、スペイン語、フランス語、アラビア語、ベンガル語、ロシア語、ポルトガル語、ウルドゥー語だ。以下の⑴から⑽ではこれらの言語の基本的な情報を説明する。

英語

英語はインド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派西ゲルマン語系に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点で英語を母語とする人と第二言語とする人の合計は15億人。母語とする人口は3億7300万人。英語を母語とする人口より英語を第二言語とする人口の方が圧倒的に多いことがわかる。South China Morning Postによると、110ヵ国で使用されている。英語が使用されている地域の数がとても多い。

北京語(中国語)

中国語はシナ-チベット語族に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点で北京語を母語とする人と第二言語とする人の合計は11億人。母語とする人口は9億2000万人。中国語は話者人口の中で母語とする人口の割合がとても高いことがわかる。South China Morning Postによると、33ヵ国で使用されている。

ヒンディー語

ヒンディー語はインド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派インド・アーリア諸語に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でヒンディー語を母語とする人と第二言語とする人の合計は6億220万人。母語とする人口は3億7500万人。中国語と同じように母語人口の割合が高い。South China Morning Postによると、4カ国で使用されている。少数の地域の中で使用されている。

スペイン語

スペイン語はインド・ヨーロッパ語族イタリック語派ロマンス諸語に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でスペイン語を母語とする人と第二言語とする人の合計は5億4830万人。母語とする人口は4億2000万人。中国語などと同じように、母語人口の割合が高い。South China Morning Postによると、31カ国で使用されている。

フランス語

フランス語はインド・ヨーロッパ語族イタリック語派ロマンス諸語に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でフランス語を母語とする人と第二言語とする人の合計は2億7410万人。South China Morning Postによると、51カ国で使用されている。かなり広い範囲の地域で使用されている。

アラビア語

アラビア語はアフロ・アジア語族セム語派に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でアラビア語を母語とする人と第二言語とする人の合計は2億7400万人。South China Morning Postによると、60カ国で使用されている。かなり広い範囲の地域で使用されている。

ベンガル語

ベンガル語はインド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派インド・アーリア諸語に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でベンガル語を母語とする人と第二言語とする人の合計は2億7270万人。South China Morning Postによると、4カ国で使用されている。少数の地域の中で使われている言語だとわかる。

ロシア語

ロシア語はインド・ヨーロッパ語族スラブ語派に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でロシア語を母語とする人と第二言語とする人の合計は2億5820万人。South China Morning Postによると、16カ国で使用されている。

ポルトガル語

ポルトガル語はインド・ヨーロッパ語族イタリック語派ロマンス諸語に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でポルトガル語を母語とする人と第二言語とする人の合計は2億5770万人。South China Morning Postによると、12カ国で使用されている。

ウルドゥー語

ウルドゥー語はインド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派インド・アーリア諸語に属する言語。Ethnologue: Languages of the Worldによると、2022年時点でウルドゥー語を母語とする人と第二言語とする人の合計は2億3130万人。South China Morning Postによると、6カ国で使用されている。

2.2 最も広がっている言語

2.2.1 言語ごとの話者人口

  2.1の通り話者人口が多い10言語は多い順に英語(約15億人)、中国語(約11億人)、ヒンディー語(約6億人200万人)、スペイン語(約5億4800万人)、フランス語(約2億7500万人)、アラビア語(約2億7400万人)、ベンガル語(約2億7200万人)、ロシア語(約2億5800万人)、ポルトガル語(2億5800万人弱)、ウルドゥー語(約2億3100万人)だ。

2.2.2 国際的な協定や連合の公用語

世界の重要な会議では公用語としてどの言語が採用されているのかを調べる。今回は国連、EU、AU、MERCOSURについて調べる。

⑴国連

国連では6ヵ国語が公用語となっている。英語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、アラビア語。常任理事国で使われている言語と多くの地域で使われている言語が公用語になっている。

⑵EU

EUでは24ヵ国語が公用語となっている。アイルランド語、イタリア語、英語、エストニア語、オランダ語、ギリシャ語、クロアチア語、スウェーデン語、スペイン語、スロバキア語、スロベニア語、チェコ語、デンマーク語、ドイツ語、ハンガリー語、フィンランド語、フランス語、ブルガリア語、ポーランド語、ポルトガル語、マルタ語、ラトビア語、リトアニア語、ルーマニア語。加盟国で使われている言語が公用語になっている。

⑶AU

AUでは6ヵ国語が公用語となっている。英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語、スワヒリ語。多くの加盟国で使われている言語が公用語になっている。

⑷MERCOSUR

MERCOSURでは3ヵ国語が公用語となっている。英語、スペイン語、ポルトガル語。⑴から⑶と同様に、多くの加盟国で使われている言語が公用語になっている。

2.2.3 インターネットで使われている言語

  インターネットで使われている言語の多い順で上位10ヵ国語を挙げると順に以下のようになる。英語、中国語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語、インドネシア語・マレー語、フランス語、日本語、ロシア語、ドイツ語だ。ポルトガル語以降は1億人台やそれ以下の人口だったが、中国語は8億人、英語は11億人ととても人口が多い。インターネット上の言語の種類・多さなどが言語の影響力にもつながる。インターネットの使用は情報を得るのに便利で、人々にとって必要になるから、これらは強い影響力を持っていると言える。

  このように、現在世界で使われている言語の中で圧倒的に話者が多いのは英語と中国語だ。話者人口が多い言語は大きく2種類に分けることができる。1つは英語のように幅広い地域で使用されている言語、もう1つは特定の人口がとても多い地域内で多く使われている言語だ。今回は言語の広がりと言語が国際社会で権力をもつ流れについて考えるため、主に前者の言語の広がりに着目する。よって、以降は英語、フランス語、アラビア語を主に取り上げる。

3.言語の広がりの背景

3.1 植民地と言語の広がりの関係

  最も話者人口が多い英語や、スペイン語、フランス語、ポルトガル語などについて旧植民地を絡めて考える。自国の植民地があった国はイギリスの他にも多くある。代表的な国はポルトガル、スペイン、オランダ、フランスなどだ。これらの国の植民地だった時期がある国を表した地図が下の図だ。

図1~6 各国の旧植民地の地図(SDGsで世界の問題を考えるサイトより引用)

  全体的に見ると、植民地が多い国の言語は他の言語よりも広がっているといえる。しかし、植民地がスペインよりも多かったフランスは、2.2のように言語の面ではスペイン語よりも使われていない。このことから言語の広がりには植民地のみが影響しているのではなく、他の事柄が影響していると推測される。

3.2 他に考えられる背景

3.2.1 言語の分類が近い言語

  言語は特徴などによって分類されている。この分類の最上位のグループから順に語族、語派、語群などと分かれている。語群以下は特に名称はないが、さらに分かれているものもある。その分類上で近い位置にある言語は言語として似ている。似ている言語は学習しやすいため、その地域により広がりやすいと考えた。英語の分類はインド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派だ。以下は2021年に行われたEF Education Firstの調査による非英語圏の中で英語能力が高い国上位10ヵ国で主に使われている言語とその言語の分類だ。ここでは語派までを記載する。

1 オランダ —— オランダ語 インド・ヨーロッパ語族(印欧語族) ゲルマン語派

2 オーストリア —— ドイツ語 印欧語族 ゲルマン語派

3 デンマーク —— デンマーク語 印欧語族 ゲルマン語派

4 シンガポール —— マレー語 オーストロネシア語族 西部マラヨ・ポリネシア語派

5 ノルウェー —— ノルウェー語 印欧語族 ゲルマン語派

6 ベルギー —— ドイツ語 印欧語族 ゲルマン語派

         オランダ語 印欧語族 ゲルマン語派

         フランス語 印欧語族 イタリック語派

7 ポルトガル —— ポルトガル語 印欧語族 イタリック語派

8 スウェーデン語 —— スウェーデン語 印欧語族 ゲルマン語派

9 フィンランド —— フィンランド語 ウラル語族 フィン・ウゴル語派

10クロアチア —— クロアチア語 印欧語族 バルト=スラブ語派

図7 ヨーロッパ内の民族の分布 Trygroup Inc. サイトより引用

上位10ヵ国で主に使われている言語12言語のうち7ヵ国語が英語と同じ語族、語派である。また、英語語彙の約3分の1ほどがラテン語やフランス語からの借用語だと言われている。フランス語やラテン語は印欧語族イタリック語派だ。ゲルマン語派とイタリック語派の言語を合わせると12言語のうち9ヵ国語が英語に含まれる語彙と同じ語派だ。よって同じ語派の言語はやはり学びやすいことがわかる。印欧語族ゲルマン語派の言語を使用している国の地域は左のようになっている。先進国の中で他に英語が使用されている国には主にカナダ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどが挙げられる。下の図は1人あたりのGDPを示した図だ。この中の濃い青緑色の国の多くで印欧語族ゲルマン語派の言語が使われている。GDPは国の豊かさや強さに関わるから、世界の主要国の大半を占めていると言える。主要国の人たちが学びやすい言語だという要素も世界で英語が学ばれている理由のひとつだと考えた。

図8 一人当たりのGDP(International Monetary Fundより引用)
imf.org/external/datamapper/NGDPDPC@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD/RUS/MNG

3.2.2 芸術・文化・技術の広がり

  現在、芸術や文化などに関わることから、その言語が学ばれることがある。そのため、文化遺産の量とその言語に関係があるのではないかと考えた。以下は世界文化遺産の数の上位20ヵ国をまとめて表にしたものだ。見ていくと、イタリアとドイツの世界文化遺産数が他の国に比べてとても多いことがわかる。しかし、どちらかの言語も話者人口の上位10言語には入っていない。このことから、言語と使用者数と芸術などにはあまり大きな関係がないと考えられる。

順位国名
1イタリア53
2ドイツ48
3スペイン43
4フランス42
5中国38
6インド32
7イギリス29
8メキシコ27
9イラン24
10日本20
11ロシア連邦19
12トルコ17
13ギリシャ16
13ポルトガル16
15ポーランド15
15チェコ15
15ブラジル15
18ベルギー14
19韓国13
19スウェーデン13

図9 各国の世界文化遺産(UNESCOサイトより筆者作成)

3.2.3 宗教

  イスラム教のように宗教によって言語が広がる例がある。イスラム教はそれが顕著にあらわれている。イスラム教では聖典は翻訳してはならず、アラビア語でよむことで力を発揮するとされている。そのため、信者はアラビア語の習得が必須となり、宗教とともに言語も広がっていた。このような例が他にもある。堀田隆一氏は英語史のブログで「宗教の拡大とともにその担い手となる言語も拡大するということは,ヨーロッパにおけるキリスト教とラテン語,イスラム世界におけるアラビア語,東アジアにおける仏教と中国語など,多くの例がある.」(堀田 2013)と記している。宗教と言語は密接に関わっているため、言語が広がる一因になると考えられる。

このレポートを通じて、世界で広がっている言語とそれらの言語が広がった原因を考えた。第2章で、世界で広がっている言語はどの言語なのか、第3章でそれらの言語が広がった原因を考察した。英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語などが世界で広がっている言語だから、それらに着目して原因を考えた。調査から言語の広がりと植民地政策には密接な関係があるが、言語間の類似性や宗教も言語が広がる一因になっていると考えた。このことから、言語が広がる原因は植民地政策だけではないと結論づけられる。

寺澤盾.(2008).英語の歴史:過去から未来への物語.中央公論新社.

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