Approaching from a data analysis perspective
Masumi Shimamura
Journal of Students Inquiry Volume 1 Issue 1
この大宮国際中等教育学校、通称MOISでは、主に4学年において数学が苦手な生徒が多いように感じられる。大学入学共通テストが私たちMOIS1期生から変わっていくが、それでも数学は重要な入試教科となっているため、MOIS生徒の数学の現状を変える必要があるといえる。よって、本レポートではMOIS生徒から集めた数学の現状に関するデータをもとに分析・比較し、今後MOIS生徒がどのような部分に意識を傾ければ彼らの数学の成績の向上につながるのかについて、予想される対策法を提示していく。
キーワード:データ・相関係数・決定木分析
ここ最近、大学受験における数学の勉強の必要性が高まっている。例えば、令和4年度大学入学共通テスト数学I・数学Aの平均点は、37.96点であった。今までのセンター試験・大学入学共通テストの平均点は大体50~60点前後だったので、これは過去最低の点数となっている。また数II・Bの令和4年度の平均点もここ5~6年の中では最低点だったので、共通テストで数学を受験する人は過去の受験者以上に対策をする必要があるといえる。また、去年のリベラルコースの説明にもあった通り、最近は文系でも数学を必要とする大学が多いため、数学を勉強すべき人は昔に比べてかなり増えたといえる。
しかし、このMOISは数学が苦手な生徒がまだ多くいると私は感じている。例えば、今私たち1期生の数学の授業は「生徒同士の教え合い」を中心としたものになっているが、見ていると毎回教える側になる生徒と教えられる側になる生徒が固定されているように感じる。
よって、この問題を解決するため、今回私は数学の得意・苦手の要因を予め予想し、それをアンケートしてデータを取り、それらを分析して要因や傾向とそれらの対策を考察し、その一連の流れを本レポートにまとめた。
まずは数学の得意・苦手を分ける要因についてだ。要因の予測の仕方についてだが、今回は自分なりにマインドマップを作成して、思いついた要因となりそうなものをひたすら書き込んでいった。また、その後は私の学校の数学科・情報科の先生に1人ずつインタビューし、その他要因となりそうな事柄を聞き出し、マインドマップに追加していった。完成図は見づらいためここにもその内容を一覧にして示す。
・得意/苦手と感じる時期
・数学に対するモチベーション
・”文字”(xやyなど)の得意/苦手
・基礎や応用問題の得意/苦手
・勉強時間
・勉強の頻度
・勉強する量
・幼少期に算数や数学に触れてきたか
・「なぜそうなるか」という理解度
・四則演算の早さ
・塾など数学に対する教育費
・図形の得意/苦手
また、これらをもとにアンケートを作成した。アンケートの質問内容は以下の通りだ
この後は設問や回答を番号で振ることが多いため、わからなくなった場合はこれを参照してほしい。設問の番号は上図の通りの番号で、回答の番号は上から順番に1,2,3,4…となっている。
アンケートは7/12~7/26の2週間にわたって配信し、回答人数は全学年合計で67人だった。この章では、アンケートから読み取れる要因や傾向をMicrosoft formsのグラフ、Excelを使用した分析結果、Pythonを使用した分析結果の3つに分けて述べる。
3.1 Microsoft formsのグラフからの分析結果
まずはFormsからだ。Formsのグラフでは、それぞれの設問ごとの回答の割合や、質問が分岐している場合に限り「この質問で○○と回答した人はこのような傾向にある」ということがわかる。
今回は、Formsのグラフのうち私個人が読み取れた割合や傾向が載っているグラフのみ取り上げて説明する。
1つ目は数学が得意・苦手になる時期についてだ。これは質問no.1の数学の得意・苦手を聞くアンケートから、「得意」を回答した人はno.2、「苦手」を回答した人はno.3を回答できるよう分岐させた質問なのだが、以上のグラフを読み取ると現在でも数学が得意な人は小学生時代から既に得意だった人が多い一方で、苦手な人は中学生になってから苦手意識を持ち始めたことがわかる。よって、「数学の得意・苦手を分けるのは、中学以降の数学の理解度と関係している」といえる。
2つ目は数学のテストについてだ。以上のグラフを読み取ると基礎問題からできない生徒はかなり少ない一方で、応用問題や文章題ができない生徒はかなり多いとわかる。確率にすると約62.6%もいた。数学の得意・苦手はこれだけでは判別できないが、ここから「MOIS生徒全体で応用問題がテスト中にできない生徒は多くいる」といえる。
3つ目は数学の種類ごとの得意・苦手だ。こちらも数学が得意・苦手な人が混ざっているが、この棒グラフを見る限り文字式の部分が得意な人が飛びぬけて多いとわかる。その一方で残りの関数・図形・データ系・確率・三角形の計算の5つは得意・苦手の割合のバラつきにあまり差がなく、全体的に得意な人より苦手な人の方が多いともわかる。ここから、「MOIS生徒は文字式以外の部分は苦手な傾向にある」といえる。
ここからは得意・苦手とは直接関係なさそうだが、MOIS生徒の数学の勉強の様子がわかるようなグラフが二つほどあったのでそれを紹介する。
まずはテスト範囲の勉強についてだ。このグラフより、回答者の半分以上がテスト範囲を一周するうえ、3/4以上の人は7~8割以上は勉強するようだ。よって、現在のMOISはテストに力を入れている生徒が多いようだ。
次は予習・復習についてだ。このグラフより、テスト範囲の学習以外でも数学の復習をする人は回答者全体の約80.6%もいるとわかったほか、予習する人も約46.7%いるようだ。ここからも、現在はかなりの人の学習状況が良いといえる。
3.2 Excelからの分析結果
次にExcelからの分析結果だ。今回、分析はpythonメインで取り扱っているが、複数回答の設問は複雑で扱うのが難しかったためExcelを使用している。
No.1/No.17 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
1 | 12 | 4 | 8 | 5 | 5 | 3 |
2 | 8.510638 | 4.255319 | 5.319149 | 4.255319 | 0 | 1.06383 |
3 | 7.042254 | 4.225352 | 2.816901 | 2.816901 | 2.816901 | 5.633803 |
4 | 8.527132 | 6.976744 | 6.20155 | 3.875969 | 2.325581 | 2.325581 |
相関係数 | -0.729 | 0.813256 | -0.47289 | -0.6831 | -0.32763 | 0.170614 |
No.1/No.18 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
1 | 8 | 10 | 9 | 9 | 6 | 7 |
2 | 5.319149 | 10.6383 | 6.382979 | 5.319149 | 7.446809 | 5.319149 |
3 | 5.633803 | 4.225352 | 8.450704 | 11.26761 | 7.042254 | 5.633803 |
4 | 3.875969 | 6.976744 | 8.527132 | 3.875969 | 6.20155 | 6.20155 |
相関係数 | -0.91061 | -0.67573 | 0.072007 | -0.35999 | 0.037676 | -0.36416 |
今回の上の表は設問1「数学の得意・苦手」と設問17「数学の部分ごとの得意な部分」を、下の表は設問1と設問18「数学の部分ごとの苦手な部分」の分布を表した表になっている。なお、縦横テーブルが表す番号は回答の番号となっていて、それ以外の数字は設問1で「1(得意)」を回答した人数17人を1としたときの、分布している人数を表している。そして、ここで注目したいのはそれぞれの相関係数だ(相関係数の説明については省略する)。今回の場合、上の図で例えると負の相関だと「数学が得意な人ほど○○が得意」で、正の相関だと「数学が苦手な人ほど○○が得意」という見方となっている(よって下の図の場合は逆)。また、相関の目安だが、今回は全て熊本県から出ているpdfファイル「相関係数とは(解説)」を基準とする(0.0~0.2ほとんど相関関係がない,0.2~0.4 やや相関関係がある,0.4~0.7 かなり相関関係がある,0.7~1.0 強い相関関係がある)。その場合、上の表では1(文字式),4(データ系)は得意な人ほどこの部分も得意な傾向にあり、2(関数)は苦手な人ほど得意な傾向にあるといえる。また、下の表では1(文字式),2(関数)は得意な人ほど苦手な傾向にあり、3(図形)は苦手な人ほど苦手な傾向があるといえる。しかし、表を見てもわかる通り、文字式の部分の相関関係はどちらも高い上に、ばらつきが似た傾向にあるためこれといった特徴はなさそうだと私は考えた。以上をまとめると、関数は数学が得意な人ほど苦手で、苦手な人ほど得意だということと、データ系は得意な人ほど得意だということ、図形は苦手な人ほど苦手だということの3つが分かった。
3.3 Pythonからの分析
最後はpythonというプログラミングソフトを使用して分析した。これでは、先ほどの特殊な設問を除いた全体の相関係数の算出と、決定木分析を行った。なお、決定木分析とは、ある目的の変数に対して影響を及ぼしている変数を特定する分析のことで、「ある変数がx以上/以下」のyes/noで目的変数がクラス分けされていく。決定木の詳しい見方については後述する。
設問No. 1 2 3 5 6 7 8 9 10 11 13 14 15 16
まずは相関係数についてだ。上の表は、数学の得意・苦手とその他設問の相関関係を表した表となっている。なお、Pythonはものにもよるが今回私が扱ったものは日本語のフォント非対応だったので、設問の名称を全て簡単な英語表記にしている。何の質問かは、表の下に振られている設問の番号を参考にしてほしい。そして、この相関係数より、「motivation(数学のモチベーション)」、「calculate(四則演算の速さ)」、「test (テスト時の応用問題・基礎問題)」の3つに正の相関があるとわかる。ここから、数学が得意な人ほど数学に対するモチベーションが高く、四則演算が速い人が多く、テスト時基礎や応用問題を解ける人が多いとわかる。
次は決定木分析だ。上図の目的変数は「数学の得意・苦手」なので、数学の得意・苦手に影響を及ぼしている変数を特定できる。左に行く矢印がyes、右に行く矢印がnoを表している。要所を見ていくと、まず一番上の部分でcalculate≦1.5となっている。よって、caluculateの値が1.5以下、つまり設問15で1を選んだ人はほぼすべての人がclass0、つまり設問1で「1.得意」を選択し、その他の人は1.5以上つまり2,3,4を選んだということとなるここから、数学の得意・苦手を大きく分けるのはcalculate(四則演算)だということがわかる。また、calculate≦1.5でno、problem≦1.5でnoと答えた人のclass分類を見ると、class3の人数が最初の17人から変わっていない、つまり設問1で「4.苦手」を選択した人のすべてがcalculateで2,3,4を選択、設問16のproblem(名前が変わっているが相関のtestと同じで基礎問題・応用問題)で2,3を選択している。よって、苦手な人のすべてが計算の速さがどちらかといえば速い」以下で、problemが「基礎はできるが応用は苦手」以下だということが分かる。
また、今まではすべての目的変数を数学の得意・苦手にしていたが、分析していく中で自分が「数学のモチベーションが高い人はどういう特徴があるのか」が気になったため、目的変数を「motivation」にして同様の分析を行った。その結果、モチベーションが高い人ほどproblem≦1.5、つまり基礎問題も応用問題も解ける傾向にあることと、class[2](motivationの設問で回答3「あまりない」を選択した人)のほとんどは「基礎は解けるが応用は解けない」以下、time≦2.5つまり数学を勉強する日は勉強時間が2時間未満の人だということがわかった。
第3章では様々なことが分析して分かったが、これをどのように生かせるのか。最後に、私なりにその対策法を一つずつ考えたので、それを紹介しようと思う。
分析結果 | 対策法 | |
1 | 中学数学から苦手意識を持つ人が多くなった。 | 授業に復習の時間を取り入れる その範囲も復習するよう呼びかける。 |
2 | 応用が苦手な人が多い。 | 文章題や応用問題を授業プリントに多めに入れる。 (4年の場合)EXERを解くように呼び掛ける。 |
3 | 関数は得意な人の方が苦手な人が多い。 図形は苦手な人が最も苦手とする部分。 | この結果を生徒に伝え、その範囲を中心に勉強するよう呼びかける。 |
4 | モチベーションと勉強時間・応用問題の得意苦手が直結している。 | 数学が楽しめるような授業を行う。 |
5 | 数学が得意な人ほど計算力・モチベーションが高く、応用問題も得意。 | この3つを重視した授業を行う。 基礎の計算が速くできるように毎授業最初の5分くらいで簡単な計算を大量に行わせる。 |
1番はformsより分かったことだ。中学数学はやはり今後の得意・苦手を決める大きな要素があると思うので、特に中1の間は「理解・定着させる」を目的に授業を行った方がよいと考える。また、すでに苦手になってしまった人には、中学数学の範囲も復習するよう伝えたり、授業内でたまに復習の時間を取ってあげたりする方がよいと思う。同じくformsの分析より復習をする人はかなり多いとわかったので、呼びかけるだけでも効果はあると考える。
2番はformsと相関係数より分かったことだ。単純に応用問題に躓く人が多いようなので、授業プリントに応用問題をもう少し多く取り入れたり、現在はexしかやっていない生徒も多そうなのでexerをやる、余裕があるならよりレベルの高い参考書を買ってもらってそれを解くなどを呼びかけたりするのもよいと思う。しかし、特に授業プリントに入れる場合などは予習が必須となっているため、予習の状況からもう少し改善するようなアイディアが必要であるともいえる。
3番はexcelの相関係数より分かったことだ。関数で数学が得意な人と苦手な人の逆転現象が起こっているのには正直驚いたが、4年生に限った話でいえばアンケートを取る少し前まで関数の授業があったため、苦手な人ほどそれに向けた勉強を頑張っていたという証拠にもなっていると思う。これに関しては対策法が呼びかける程度しか思いつかなかったが、このように数学の範囲を狭めて呼びかけることで、「どこから勉強すればよいかわからない」という生徒にとっては役に立つと思う。
4番は決定木分析よりわかったことだ。勉強時間や応用問題の得意・苦手とモチベーションにはかなり関係性があることが分かった。これは主観だが、数学は得意になるとモチベーションが上がり、モチベーションが上がると勉強時間が増え、勉強時間が増えるとより数学を得意になる…という好循環になっていると考えているため、モチベーションを上げるような授業をうまく展開できればMOIS全体の数学力は徐々に上がっていくと思う。
5番はpythonの決定木分析と相関係数からわかったことだ。数学の得意・苦手は応用・モチベーション・計算力の3つに相関があった。特に応用問題とモチベーションは他の分析でも関係性が分かっているためこの二つは重視するとよいと思う。また、計算力も相関があったため、基礎中の基礎ともいえる計算力を向上させられるよう授業や日常生活で計算を多くさせれば、数学が得意になるかもしれない。
今回は自分自身初めての挑戦が多々あった。特にpythonの使用は初めてだったので戸惑いが多かったが、自分の納得できるような分析ができて良かったと思う。ある程度はMOISの数学の改善につながるのではないだろうか。
その一方で、自分自身課題点だと思う箇所がある。それはデータの取り方についてだ。今回は設問に番号を振って分析していたが、その際に表やグラフが見づらいと感じたり、分析がしづらかったりといったことが起こった。よって、次からは具体的な数値が引き出せるような質問をすることで、分析の精度ややりやすさが向上すると考える。
また、これは自分では解決しづらいものだが、今回は回答者の主観にゆだねるような質問が多かったためにデータ全体の信頼性が下がっているように感じたので、次またこのような機会があったらテストの点数など客観的に信頼できる数的データを用いたいと思った。
「相関係数とは(解説)」(n.d).『熊本県』.https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/13589.pdf(2022年8月22日)
「大学入試共通テスト平均点推移(1997-2022)(旧センター試験)、2023年共通テスト日程」(2022).『受験の月』.https://examist.jp/centersiken-heikinten/(2022年8月22日)